私たちはマンション近くの喫茶店に入った。

「お名前、伺ってなかったわね。私、篠原麗香といいます」

「石原慧です。あの、西島さんとはどういう…」

「会社の元同僚よ」

「親しい間柄だったんですか?」

「なんで?」

「啓之って、下の名前で呼ばれてたので」

「そうね。会社の元同僚で元恋人」


 元恋人。


さらりと言われたその言葉にドキリした。なんでそんな人が西島さんのマンションまで来ていたのだろう。

「でも、西島さんに何か用があったんじゃないですか?」

「ああ、ちょっと昔の物を返しにね」

「昔の物?」

「もう私には必要のないものよ。近くを通りかかったもので、電気がついていたからいるのかと思ったら、あなただったのね」

 彼女は頬杖をついて私を見つめた。西島さんのマンションの場所を知っているということは、きっとふたりが付き合っていたときも彼はあのマンションに住んでいて、彼女はそのマンションに来たことがあるということだ。

「石原さん、若そうね。おいくつ?」

「22です」

「丁度彼と20違うのね。若いって羨ましいわ」

 髪をかき上げたときにイヤリングがちらりと見えた。