こんなふうに三宅先輩に助けられたのは初めてで、相手に物怖じしない姿は頼もしかった。いつもおちゃらけているのに、あんな一面があるなんて驚いた。

修羅場になったのは一瞬だけで、店内には再び和やかな空気が訪れ、その後は普段通りに営業した。忙しい時間帯のピークを越えて、徐々に店は静かになっていく。

今日は客の引きがいいようだ。さっさと掃除をして店じまいをし、私と三宅先輩はお店をあとにする。

「大将、おつかれっしたー!」

「お疲れ様でした!」

「おう、ふたりとも気ぃつけてな」

 私と三宅先輩は駅まで一緒に歩いていく。深夜の街は車通りも人通りも少なく、街灯が寂しげに灯っている。

「今日の先輩、かっこよかったです。毅然とした態度で冷静に対応されてすごかったですね」

「ああ、ホントに?照れる~」

 彼はにぃーっと笑って額のあたりをぽりぽりかいた。

「あ、惚れちゃったりして~?」

「惚れませんよ」

 冗談で言っているのか本気で言っているのか分からなくて、私は曖昧に笑った。

「うわ、はっきり言われると傷つくだろ。分かってるわ。で、西島さんとはうまくいってんの?」

「うまく…いってると言えばいってるとも言えるし、そうでもないと言えばそうでもないというか…」

「歯切れ悪いな。なんかあったの?」

「もう済んだことではあるんですけど、ちょっといろいろあって、彼の過去の恋愛が気になって、たぶん嫉妬ってやつだと思うんですけど、最近モヤモヤしてます」

「大好きなんだな、西島さんのこと」

「そう、ですね。大好きです」