彼は、言葉を選んでいるのか言い淀み、顎に手を当てる仕草をした。はっきり言って困っているような、焦っているような、そんな微妙な表情をしていた。

「そんなに説明に困るようなことなんですか?拾ったものとかじゃないんですね」

「たしかに、拾ったものではないです」

「誰のものなんですか?」

「…以前、付き合っていた人のものです」

「付き合っていた人…」

 昔付き合っていた人と会っていて、このイヤリングは彼女のものである、という事実だけで私の頭は混乱した。

今まで話題にも上らなかったどころか想像すらしていなかった昔の恋人の話が突然沸いて出てきた。彼の過去にはそういう存在だった人がいて、彼女との関係はまだ現在進行形であるらしい。

私はそんなに物分かりがいい方ではないし大人でもない。

彼は何か言っているようだが、私の頭の中は嫌な憶測と妄想に支配され、彼の言葉の輪郭がぼやけて頭に入ってこない。

「すいません、帰ります」

 私はおもむろに立ち上がり部屋を出た。

「待って!」

 彼の制止を振り切り、走ってエレベーターに飛び乗った。1階に降りて扉が開くと同時にエレベーターを飛び出した。マンションを出てすぐの交差点を走って渡ろうとしたとき、目の前にトラックが迫って来るのが見えた。

激しく鳴り響くクラクション。

轢かれる!と思った瞬間、強い力で勢いよく腕を引かれて後ろに倒れ込んだ。

転んで痛みがあるはずなのに、まったく痛みを感じない。


私をかばってくれたのは西島さんだった。