どうにもこうにも~恋人編~

 夕方の経営企画部の合同会議を終え第一会議室を出ると、隣の第二会議室からもぞろぞろと人が出てきた。どうやら食品産業グループの商品開発部が他会社と打ち合わせをしていたらしい。

その中に篠原麗香の姿があった。

目が合うと、彼女はにこっと微笑みかけ、「おつかれさま」と言って俺に歩み寄ってきた。

「あなたも会議だったのね」

「ああ、君も。そうだ。今度会ったら君にこれを返そうと思って」

 俺はイヤリングを取ろうと上着のサイドポケットに手を入れるが、入っているはずのそれの感触がない。

「おかしいな。家に置いてきたか?ポケットに入れっぱなしにしていたはずなんだけど」

「何を返すって?」

「イヤリングだよ。なんのいたずらかは知らないけど、上着のポケットに入れたろう」

「ああ、あれね。ちょっと意地悪したくなっちゃって」

「なんだよ、意地悪って」

「さあね。イヤリングはいつでもいいわよ。それと、家はまだあのマンションのままかしら?」

「そうだが」

「私も、返さないといけないあなたの私物があるの。今度持ってくるわ」

「会社ではだめなのか?」

「会社に持って来るようなものじゃないもの。じゃあまたね」

 彼女はカツカツとハイヒールを小気味よく鳴らして去って行った。