付き合い始めてからは、平日は私のバイト先の居酒屋に西島さんが時々訪れ、日曜日はデートをすることが多くなった。ある土曜日の夜、彼から電話があった。

「風邪を引いてしまったようです」と言う電話口の声は掠れて苦しそうだ。

「じゃあ、週末のデートはお預けですね」

「ええ、申し訳ありません。熱まで出てしまって。この埋め合わせはまた…」

 西島さんは言い終わる前に咳が止まらなくなってしまい、そのまま電話が切れてしまった。

 明日は待ちに待った日曜日。美術館デートの予定だったが仕方ない。彼が風邪を引いてしまったのは、最近忙しかったせいだろう。帰りが日付をまたぐ日もしばしば。ご飯もろくに食べていなかったようだ。

 風邪を引いた西島さんに何かできないだろうかとしばし思案。

 私は日曜日の午前中にスーパーに行って、お粥の材料、栄養ドリンク、ヨーグルト、果物など、元気になりそうなものを買い、一応マスクもして彼のマンションを訪れた。私から彼の部屋に赴くのは初めてだ。

少し緊張して呼び鈴を鳴らした。出てくる気配がないのでもう一度鳴らす。出てこない。

まさか、部屋でよからぬことが起こっているのでは…?

不穏な空気を感じ、以前もらった合鍵で慌ててドアを開けた。

「西島さん!?」

 大急ぎで部屋に上がると、以前来たときよりも雑然としているリビングの床に、パジャマ姿で倒れている彼を見つけた。彼の手元にはスマホが転がっている。