「ちょっと散らかってますけどどうぞ」

「おじゃましまーす」

 彼のマンションに来たのは、ふたりで缶ビールを飲んで私が酔っ払ってしまったとき以来だ。私は酔いすぎて話ができなくなってしまったため、彼が私を自分のマンションに連れて帰ったのである。今思い出すだけでも自分の失態に頭が痛くなる。

 通されたリビングは、散らかっていると言っても私の部屋ほどではない。基本的に物が少ないようだ。あらかた整理整頓されていて清潔感がある。以前来たときは部屋の中を見る余裕はなくてよく分からなかったが、部屋全体がネイビーを基調にしていて落ち着いた雰囲気がある。

 リビングのソファにふたりで並んで座るとなんだか緊張してしまう。とりあえず彼が淹れてくれたお茶を飲んで喉を潤す。車の助手席に乗っていたときも近くてドキドキしたが、そのときの距離感とはまた違う。

「今日は楽しかったですね。誰かと出かけるのは久しぶりでした」

「私も楽しかったです。こういう時間ってあっという間ですよね」

「ええ。明日からまた仕事が始まると思うと憂鬱な気分です」

 不意に彼の手が私の髪に触れ、何度か指で梳いた。

「なんか、緊張してる?」

「いや、だって、ふたりきりだから…」

「車の中でもずっとふたりきりだったじゃないですか」

「それとはまた違いますよ。今は人の目もないし」

「人の目がないから、こういうこともしたくなりますね」

 彼は私の唇に軽く口づけを落とした。