どうにもこうにも~恋人編~

「あ、一緒に写真撮りましょ」

 私は紅葉をバックに、スマホを上に構えた。

「西島さん、もう少しかがんでください」

 彼はぎこちなくかがんで見せた。

「もうちょっと寄らないと入りませんよ」

「こ、こうかい?」

 自撮りに慣れてない感じがかわいい。スマホの画面を見ているから、写真の彼は視線が微妙にずれている。それもかわいい。

 ツーショットが撮れたのはいいものの、バックの紅葉があまり入っていない。

「お撮りしましょうか?」

 不意に数名の中年女性のグループのひとりに声を掛けられた。

「あ、お願いします!」

「はい、じゃあいきますよー」

 西島さんは私の肩を抱き寄せた。カシャ、カシャっとシャッター音。

「うまく撮れてるかしら」

 撮ってくれた写真を確認すると、しっかりとバックに紅葉が映っていた。ふたりの表情もにこやかでいい。

「ばっちりです。ありがとうございます!」

「お父さんと仲良くお出かけなんていいわね。若いお父さんね。うふふ」

「いや、この人は―――」

「みなさんも旅行楽しまれてください」

 私の言葉を遮るように、彼は写真を撮ってくれた女性を含むグループに声を掛けた。振り向くと彼はただ微笑んでいた。私は、「どうして『彼氏です』って言わせてくれなかったの?」という問いを飲み込んだ。

「行きましょう」と言う彼の後を追って歩みを進めた。

「手、つなぎましょ」

 私は彼の指に自分の指をからませ、しっかりと恋人つなぎで彼の手を握った。