どうにもこうにも~恋人編~

 気づけば鯉の洗いも鯉こくも半分以上私が食べていたのではないかと思うほど食べてしまった。あんなにたくさんあったのにいつの間にか全部お腹の中だ。

「あまりにおいしそうに食べるから、いっぱい食べさせてあげたくなるんですよね」という彼の言葉に甘えてしまった。食い意地張ってると思われなかったかな、といささか心配になる。

「さて、腹ごしらえもできたことですし、滝を見に行きましょうか」

 私たちはまた車に乗って、滝が見れるという紅葉の名所へ向かった。車を降りてからは石段を登って上へ上へと歩みを進めた。石段のまわりは木々に囲まれ、鳥のさえずりが聞こえてくる。どこか幻想的な雰囲気をまとっている。

なだらかな斜面ではありながら、この石畳や階段は運動不足の私には少々きつい。それに対して西島さんは疲れた様子もなく颯爽と歩いている。

「夜はライトアップされてきれいらしいですよ。夏は夏でホタルも見られるらしいし」と息が切れることなく話す姿はどこか涼しげだ。

「西島さん、なんでそんな平気そうなの…」

「大丈夫ですか。ゆっくり行きましょう」

 さりげなく手をつなぎ、私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる彼は優しい。

「あ、展望所ですって」

 彼が指さした先の展望所は、京都の清水寺の舞台のようにせり出していて、眼下に広がる紅葉とその奥に街並みを一望できた。

「すごい、きれい」

 私はバッグにしまっていたスマホを取り出して、この風景を数枚カメラに収めた。