私の好きな人もまた私のことを好いている、という事実を思い起こす度に顔がにやついてしまう。今日も図書館で卒論のための資料を読んでいるが、西島さんの顔がちらついて内容が頭に入ってこない。このままじゃ卒論がやばい。

 彼と付き合うことになったホテルでのあの日、家に帰ってから一体あのホテルは一泊いくらするのだろうとネットで調べてみたら目玉が飛び出た。慌てて彼にメールしたが、「内定祝です」といなされてしまった。たしかに会えなかった分の埋め合わせをしてくれと言ったのは私の方だが、申し訳ない気持ちになった。彼には「埋め合わせの埋め合わせは、今度体で払ってもらいましょうか」と言われ、いやらしい妄想が頭を駆け巡らずにはいられなかった。

 結局、卒論の資料集めに集中できないままバイトに行く時間になってしまった。山積みにした本を元の場所に返し、バイト先へと向かった。

 大学の最寄り駅から徒歩10分ほどのところにある個人経営の居酒屋である。路地裏に佇む言わずと知れた隠れ家的スポットになりつつあった。この居酒屋では前々から大学生のアルバイトを雇っているらしく、大抵はここでバイトをする先輩づてで脈々と受け継がれている。

かく言う私も縁あって大学院生の三宅先輩から誘われたのだ。今日のバイトは私と三宅先輩だ。彼はここでのバイト歴が長いので、マネージャーか何かなのかと思うほどの立ち回りで店主からは重宝されている。今日も威勢のいい声で店を活気づけてくれている。

 今日は華の金曜日。お客さんの入りはいつもより多い。私もあっちへこっちへ注文を取っては盛り付けを手伝い、品を運び、愛敬を振りまいている。