それからしばらくして、稚沙(ちさ)はやっと泣きやんだ。

椋毘登(くらひと)、迷惑かけてごめんなさい。厩戸皇子(うまやどのみこ)が来られないのなら、ここにいても仕方ない。私は住居に戻ることにする」

だが今は日もかなり暮れており、辺りもギリギリ見える程度である。

そう話す稚沙に対して、椋毘登はふと彼女にいった。

「でもお前、元々厩戸皇子と星を見る約束をしていたんだろ?だったら俺がこれから一緒に行ってやるよ」

椋毘登は少し面白そうにして、彼女にそう話した。

「え、椋毘登と。それも厩戸皇子から頼まれていたことなの?」

「いいや、それはいわれていない。これはあくまで俺個人の提案だよ。
それにこのままだと、お前も辛いだけのままだろ?」

(でも椋毘登からしてみれば、そんなことしても何にもならない)

「べ、別にそこまでしてもらう必要なんてないわ。これ以上あなたに迷惑なんてかけたくないもの……」

稚沙は頑なに彼の提案を断ろうとした。こんな恥ずかしい場面を見れたあとだ。なおさら素直に同意することができない。

だが椋毘登の方は、どうも引き下がる気はないらしく、強引に彼女を立たせると、手を掴んで「良いから行くぞ!」といってそのまま歩き始めた。

そのため稚沙も、結局はなすがままの状態で、彼に連れていかれることになってしまった。

(椋毘登は一体何を考えているの)

稚沙は椋毘登のその強引な行動に対して、少しムスッとしてしまう。

一方椋毘登の方は、何故だか妙に楽しそうにしている。


そして小墾田宮(おはりだのみや)の門から少し歩いた所までくると、2人は足を止める。

辺りは木立(こだち)になっており、一面が草木でおおわれていた。

空には月と満天に輝く星々が、とても光輝いていた。

その光景を目にした2人は、思わず釘入るようにして、夜空を見上げる。

「わぁ、凄い綺麗~!!」

「あぁ、本当にそうだな」

それから2人は、近くに岩場があったので、そこに座って腰かけて星を見ることにした。

「星って、俺達が生まれるずっと前から、こうやって夜空で輝き続けていたんだろうな」

「確かにそうね。昔の人達も同じように、こうやって星を見ていたんだわ!」

そしてふと彼女は北の星の中で一番光
輝く星を見つけた。
その下には北斗七星もあるので、きっとこれは北極星であろう。

「ねぇ、椋毘登。北の方角にとても綺麗に光って見える星があるわ」

稚沙はその星を指差して、彼にそう話す。

「あぁ、あれは北極星か?」

「多分そうだと思う!北斗七星も下に見えるから」

稚沙もやっと気持ちが落ち着いてきたようで、だんだんと笑顔で話をするようになってきた。

そんな嬉しそうにして話す彼女を見て、椋毘登も少しほっとしたような表情を見せる。

「とりあえずお前が、元気になって安心したよ。さっきまでかなり泣き崩れてたから、何んかほっとけなくてね」

やはり椋毘登は、稚沙の様子を心配して、星を見に誘ったようである。