志摩吐(しまと)が刀を握って、馬子(うまこ)めがけて走り出す。そして彼は馬子の前にいた椋毘登(くらひと)の従者も難なく払いのけていった。

蘇我馬子(そがのうまこ)ー!覚悟しろーー!!」

馬子は今まさに殺されようとしているのに、何故か余裕の表情を見せていた。

その時馬子の前にさっと椋毘登が現れた。そして彼が刀を振る前に、椋毘登は彼の腹を思いっきり斬りつけた。

そして「ギャー!!!」と彼は絶叫の声を出して、その場に崩れ落ちた。

(な、何だと。このガキ、いつの間に!)

「く、くそ。お前、先程から、ちょろちょろと……一体何者だ!」

志摩吐は痛みに耐えながら、顔だけ上げて椋毘登を見る。

「こいつは私の甥であると同時に、護衛もかねている。何分お前達同様に、私は命を狙われやすいんでな」

蘇我馬子はそういってから、ニヤリと笑った。彼はどうやら、椋毘登に絶対的な信頼を置いているのだろう。

そんな光景を見ていて、古麻(こま)が思わずハッとした。

「そういえば、馬子様は自身の身を守る為に、最近護衛をつけたって噂があったわね……」

それを聞いて稚沙も驚く。

つまりその護衛というのが、蘇我椋毘登のことだったのだ。
そしてそんな中、椋毘登は志摩吐に止めをさす。

それは本当にあっという間のことだった。

それから古麻は、伊久呂(いくろ)の息がまだ少しあることに気が付き、彼に近付いた。

「伊久呂、あなたもう助からないのね」

伊久呂の方も悟っているようで、どうやら彼は諦めは付いているみたいだ。

「あぁ、お前には迷惑かけたな。だが割りと良い女だったから、復讐が終われば、お前のこと少し考えたかもしれないな……」

そういって伊久呂は息を引き取った。

「伊久呂、何で最後にそんなこというのよ!」

そういってから、古麻は彼を抱いてわんわんと泣き出した。

そんな彼女らの光景を見ている周の者達は、何も話そうとせず、静かに見続けていた。

その後しばらくしてから宮の人達を呼んだ。
とりあえず今夜は死体だけ部屋から移動させることにし、部屋の片付けは翌日することになった。