その後2人が倉庫にやってくると、どうやら宮人達が数名で、倉庫の片付けを始めていたようだ。

その中に古麻もいたので、稚沙は彼女に話しかける。

古麻(こま)、遅くなってごめんなさい!その後は大丈夫?」

古麻は稚沙の声に気が付くと、彼女の元に急いでやってきた。

「もう、稚沙。あなたいきなり走ってどこかに行って。一体何が……」

古麻はふと稚沙の横にいる椋毘登(くらひと)に、思わず目をやる。
だが彼が誰なのかは知らないらしく、少し不思議そうにして彼を見る。


「突然で、本当に申し訳ない。俺は蘇我椋毘登(そがのくらひと)蘇我馬子(そがのうまこ)の甥にあたる者です。
今日は叔父の代理で小墾田宮(おはりだのみや)にきてました」

椋毘登は古麻の前で急に愛想よくなり、彼女にそう挨拶をする。

「それで先ほど俺がこの近くを歩いているのを、彼女に見られていたようです。なのでその時のことを聞きたいと、彼女にいわたもので」

「まぁ、稚沙、それで急にここから走って行ってしまったのね」

古麻は椋毘登の話しを聞き、とりあえず彼女の行動には納得出来たようだ。

「それで俺自身は、特に怪しい人影は見ませんでした。
ただこの件がちょっと気になり、それで彼女にお願いして、倉庫まで連れて来てもらったという訳です」

そういって彼は、ふと稚沙に目を向ける。

(これは私の行動も、旨く誤魔化してくれたってこと?)

稚沙はそれを聞いて、彼の頭の回転の早さにとても感心してしまった。

「まぁ、そうでしたの。でも蘇我馬子様のお身内の方に、このような場面を見せてしまい、本当に申し訳ないわ」

古麻から見ても、蘇我一族の彼の方が自身よりも身分が高い。しかも彼は蘇我馬子の甥にあたる人物である。

そんな古麻を見た蘇我椋毘登は、少し彼女に歩み寄ってきた。

「いえ、あなたの方こそ、こんな場面に遭遇してさぞ驚かれたでしょうね」

椋毘登は古麻にとても優しい口調でそう話した。

彼は見た目は割りと良い青年だ。そんな彼に優しくいわれたため、古麻は少し顔を赤くした。

(この人、人当たりだけは相当良い……)

稚沙は彼のそんな変貌を、何ともいえない気持ちで見ていた。

それから彼は稚沙に向き直っていった。

「じゃあ、稚沙。中には入らないから、外から少し中を覗かせてくれないか?」

稚沙もそれぐらいなら大丈夫だろうと思い「分かった」といって、彼を倉庫の入り口まで案内する。

それから彼は興味深く倉庫の中を覗く。

倉庫内は片付けが始まっているので、最初の時よりも今はだいぶ綺麗になっていた。

「なる程、この倉庫にはこのような物が色々と置かれてあるのか」

彼も炊屋姫の倉庫を見るなんてことは早々出来るものではない。なのでとても関心しながら、中を見ているみたいだ。