泰良(たいら)くんおかえりー……て、どうしたのその怪我?」



家に帰るとショーケースの後ろ側に立つ璃香子(りかこ)が目を丸くした。

肩の高さに切り揃えられた黒い髪。Tシャツと黒のふんわりとしたスカートにお店のエプロンを身に付ける。


俺の両親が経営するのは、団地の中に昔からある小さな洋菓子店。

今どき、お洒落、映えるとはいえないけど、経営は悪くないらしい。
うちで働く従業員の璃香子は、高校の頃からバイトしていて、去年 卒業してからも仕事を続けている。
その璃香子が両手を腰に当てて口を開いた。



「もー、また喧嘩したの?」

「俺、悪くねぇし。向こうから突然因縁つけてくんだぜ?"加賀美(かがみ)泰良(たいら)ちょっと面かせ!生意気なんだよ"ってさー」

「まったく、そんな派手なキラキラ頭してるから目ぇつけられるんだよ。それに、まだお昼前なんだけど、またサボり?」


璃香子の華奢な手が俺の髪を梳かすよう触れてくるから、少しくすぐったい気分になる。
こうやって璃香子に撫でられのは嫌いじゃない。むしろ、気持ちがいいくらいだけど。



「ほら、手当てするからそこ座って」

「いらねーよ」

「…………」

「あ?璃香子、どした?」