「ねぇ、どこか旅行に行かない?」

そう言ってきたのはお母さん。

「いいんじゃないかな?」

そう言ったのはお父さん。

「温泉とかいいんじゃない?」

お母さんとお父さんはそのまま話す。

それを気にせずご飯を食べ続けているのは好きになってしまった兄弟の遙。

そしてその様子を苦笑いしながら見てる私、鈴木茉由。

遙、もうちょっと会話に入ればいいのに。

そう思い、遙を見ていると目線が合った。

思わず下を向いてしまう。

少し前を向くと遙も下を向いていた。

海に行った後から遙の様子がおかしい。

あんまり私に話しかけなくなった。

少し悲しい。

そんな微妙な空気の中、お母さんが話しかけてきた。

「2人とも温泉旅行でいい?」

声をかけられ流石に私たちも前を向く。

「僕はそれでいい」

「私も」

「じゃあ決定ね〜」



そう話していたのが数日前。

すぐにお父さんが準備してくれて、今車に乗っている。

もちろんお父さんが運転席でお母さんが助手席だから自然と私たちは隣の席になってしまう。

気まずい中、私たちは目的地についた。

「うわぁ!すごい!」

思わずそんな声がでた。

目の前には大きい温泉旅館があった。

「ほんとだ。すごいね」

車で寝てた遙はいつもより大人しい。

それが少しか、かわいい。

「じゃあそれぞれ温泉に入る?」

「そうだね」



そして温泉に入った後、お母さんと一緒に旅館の部屋に向かう。

お父さんと遙はまだみたいだ。

「ねぇ、茉由」

「ん?なーに?お母さん」

「好きな子いないの?」

その言葉に飲んでいたコーヒー牛乳をこぼしそうになる。

その様子をみてお母さんはニヤニヤしている。

「やっぱりいるのね?だれ?クラスの子?」

「お、お母さんには関係ないでしょ」

思わずそう言ってしまう。

これで完全に肯定したことになってしまった。

「えっと、僕たちは邪魔かな?」

声が聞こえて横を向くとお父さんと遙が立っていた。

まずい。

「もしかして、聞いてた?」

私がそう聞くと2人とも気まずそうな顔で頷いた。

最悪だ。

バレる可能性だってある。

「茉由、ごめんなさい」

「いいよ、お母さん」



「まあ、そんな感じだった」

「え〜、茉由、好きな子いたんだー!」

愛奈には遙と兄弟ってことを伏せて温泉旅行のことを話した。

「で、だれ?クラスの子?」

「そんな気になる?」

「気になるって!」

私が悩んでるうちに愛奈は思い付いたらしい。

ニヤニヤしながら言う。

「もしかして遙君?」

その声に私は何も言えなかった。

「やっぱり正解かぁ。勉強会の時、意識してたもんね」

「それでわかったの?」

「結構わかりやすいよ?」

「え」

自分はあまり感情を表に出さない方だと思ってたのに。

「バレないようにね?」

「うん、気をつける」

そんな夏の思い出だった。