私を気遣いながら、貴一はベビーカーを押して、自宅へ向かう。

「ちょっと…どうしたの、その子!」

貴一のお母さんも、当然驚いていたが、流石は育児の経験がある人なだけに、泣く子を寝かしつけるのもお手のものだった。


赤ん坊が寝たあとで、私は貴一の家族と話し合った。

「まずは、警察に伝えないといけないだろうな…」

貴一のお父さんが言うので、皆が見守ってくれる中、私は県警に電話した。

まだ頭が混乱していて、自分でも明らかにおかしなことを言っているとわかるのに、言葉がうまく出てこないのだ。

「さっきから君、荒唐無稽なことばかり言ってないか?そもそも、なんでそんなふざけた偽名を使うんだ!」

スピーカーホンにしているので、部屋中に警察官の怒声が響いている。

「明菜、俺に代わって…」

貴一はそう言い、冷静かつ正確に、この状況を説明してくれたので、やっと警察官は真面目に話を聞く気になったらしい。

(普段は抜けてるところがあるのに、いざという時は、いつも頼りになるんだよね…)

こんな状況に置かれていながら、私は貴一に惚れ直していた。