「トラックの中で言った「両親と会える」って願い事もある」
あぁ…ユージオ。
君はもう死を受け入れる覚悟なんだね。
「僕は嫌だ……死にたくないっ」
「聞けよ。ロバート」
逃げようとした僕をユージオが離さなかった。
ーー死にたくない。
そんな絶望的な空気を優しく包み込むような柔らかな声音でユージオはこう囁いた。
「それは俺と俺の家族と一緒にお前と天国で過ごす夢だ」
ふとユージオの顔を見る。
ユージオは天使のように微笑み、笑う。
「なんだよ。せっかく提案してやってるのに、そんな顔してよ」
眉を伏せているユージオ。僕を抱きしめる手は震えている。
本当はユージオは嘘を言っているのだ。
ーー僕の恐怖を和らげるためにそう言ってるの?
その優しさにふと泣きそうになって。
「泣くなよ……せっかく決心したんだ。なのに、決心が揺らぐじゃん」
ユージオも僕をみて涙を目一杯に流していた。
青く透き通る様な瞳を持ちながら。
ユージオはゆっくりと軍服の胸ポケットから何かを取り出す。
前々から僕は勘付いていた。
硬い小物の様なものがあるなと。
それがなんなのか分かっていながらも、最後の最後まで僕は口にする事はなかった。
「……これ。何かわかるか」
ユージオはゆっくりと「それ」を差し出した。
ーーわかるよ。
「手榴弾。お前と走ってる時に道で拾った」
ユージオは今から何をしようとしているのかやっと分かった。
ゆっくりとユージオは手榴弾のピンを抜く。
抜いた瞬間凄まじい威力の爆発が巻き起こった。
その爆発に飲み込まれる僕達。
「俺達はずっと一緒だ。ずっとずっと天国で暮らそう。楽しく。今までできなかった事、たくさん悔いのない様にたくさん天国でするんだ」
僕達は爆発する光の中、溶け合う様に意識がまだらになっていき生き絶えた。
最後に僕は「ずっと一緒。ずっと、ずっとだよ」と涙ながらに言って。
❤︎
「最後の二人結局は自爆か」
大男と子供に言われる兵士の俺は、二人の子供が死んだ場所から離れた場所で様子を見ていた。
「ミスター、カロロ。もっと万能にならないのか?あの油。弱点のない様ちゃんと作れと「上」から命令されているのだろう?」
この不思議な油を作った張本人。
ミスターカロロに声をかけた。
ミスターカロロ。ーーそれは齢15歳の天才科学者。
薄暗い研究室に薬品作りに没頭するその姿は、まるで悪魔。
どんな兵器だって作ってしまう怪物。
「今それを試しているんだろう?大男くん。これでも改良を10000回ぐらい繰り返した結果だ。もっと改良を続けたければ、子供達をもっと集めてくるんだね」
「……」
完全に狂った考えだ。
実験の為ならどんな手段も問わない恐ろしい思考の持ち主。
話にならない。
「この薬品が私は作れれば他人の命などどうだっていい。早く連れて来なさい。次の子供達を。そうじゃなければ君の上司に報告してクビにさせるぞ?」
「御意。かしこまりました。ミスターカロロ」
ーーまたあの実験を始めるのか……。
少々胸が痛くなるが、これは上からの命令だ。
仕方ない。
最初の頃より可哀想という感情が湧いてこなくなってしまったのも、きっと自分は人間ではなくなって来てるのかもしれない。
だが今はそんな事を言っている心の余裕などなかった。
ーー自分さえ良ければそれでいい。
そんな思考が俺の体を支配して、無の境地に陥る。
俺はそんな気持ちのまま、次の子供をさらう為ミスターカロロの研究室を出た。
fin


