莉子の仕事は9時〜6時が定時


BARの開店は7時だから
開店前準備を含めれば

莉子の帰宅を出迎えてやれない


せっかく想いが通じ合ったのに
そんなすれ違いの芽は潰すしかない



「お帰り」


「ただい、ま?」


案の定、玄関で出迎えた俺を
莉子は鳩豆顔で見上げた


「凛さん今日も休むの?」


「ううん、開けるわよ?」


「ん?」


「いつも通りだと莉子に会えないから
開店時間を遅らせることにしたの」


色黒としか付き合ったことのない莉子には
想いはストレートに伝える方が分かりやすいはず

俺の勝手な解釈だが


それを莉子は「嬉しい」と素直に喜んでくれた


「ご飯作ってるから、着替えておいで」


「うんっ」


僅かな時間を惜しむように
少し急かした俺を

莉子はとびきりの笑顔で応えてくれた


夜はお客さんからの差し入れと
おつまみで済ませることが多かったけれど

莉子には作ってあげたい

だから、量は少なめだけど
毎日一緒に食べることにした


「凛さん少なくない?」


「アタシはこれから出勤よ」


「あ〜、そっか」


「ほら、沢山食べて」


「うんっ」


平日顔を合わせるのは朝と夕飯

俺にとっては仕事終わりに
ベッドに入るときも嬉しい瞬間だが

早めに手を打つことにした



「莉子」


「ん?」


「土曜日、挨拶に行きたいんだけど」


「・・・へ?」


「ご両親にね」


「・・・いい、の?」


「当然のことだから」


「嬉しい」


妙に喜ぶ莉子の頭を撫でると
癒しの時間が終わった