「「ヤッホー」」


肩を組んで上機嫌の二人と


「・・・ハァ」


疲れた顔をした莉子が店にやって来たのは八時を過ぎた頃だった



「いらっしゃい」


酔っ払い二人をカウンターに座らせると
並んで座った莉子に向かい合った


「こんなに飲ませたの?」


「自分で飲んだのよ」


「二人共?」


「うん」


相当飲んだのか酔っ払い二人はニヤニヤしている

それを眺めていると


「凛子ママ、聞いたわよっ」


真澄が大声で話し始めるから

静かに飲んでいた客は「また」と帰って行った

いない方が都合が良いから
大して気にもしていなかったが


終いにする、と入り口に鍵をかけたあと


「アンタ達、高くつくわよっ!」


少し脅してみると


「今日一日、高嶺の花の所為で大変だったんだからぁ」


真澄は可哀想アピールをしてきた


「高嶺の花がどうしたのよ」


「莉子なんかさ〜別人みたいに
急に笑顔を見せたりするからね?
高嶺の花が咲いたって会社の男どもが押し寄せてきて
大変なことになってんだからぁ」


なんてことだ

敵は色黒だけじゃなかった


真澄と青木の話を聞きながら

莉子を見ると面白いくらい情けない顔をしていた


「んで?アンタは何の花を咲かせたのよ」


俺を見つめているのに
心ここに在らずの莉子を詰めれば


「・・・ブッ」


盛大にワインを噴いた


「ちょ、アンタっ!」


咄嗟に手で口を覆ったから大して飛沫も飛んでもないが


「やだ、この子ったら」


おしぼりを出して莉子の手を拭く


「はい、終わり」


カウンターも綺麗に拭き取って
新しいおしぼりを手に握らせると


「酔ったの?」


ユラユラ揺れる瞳に映りたくて顔を近づけた


「・・・っ」


驚きで目を見開く莉子の頬に触れる

酔っているのかと見ているうちに

その大きな瞳から
涙が溢れ落ちてきた