(凛、○○ワイン在庫ない?)


少し値の張る年代もののワインの予約が入っていたのに
落として割ってしまったと同業のアビ子ママから電話が入った


「・・・ある」


本当は莉子の為に置いてあるものなのに
渋々譲ることにした日


繁華街の奥まった所にある歓楽街まで配達がてら歩いた帰り道


ネオンが灯り始め、色付き始めた道の真ん中で
ポロポロと涙を溢す莉子を見つけた



・・・やっとか



清水の悪行がバレるのが遅過ぎたくらい


俺のことを
“苦手”というキーワードひとつで
店に顔を出すことは無くなったけれど

相変わらず外では同じことを繰り返していたゲス野郎


清水を想って週末しか会わない莉子は
相手にとっては都合の良い女で


それが油断に繋がったのだろう


漸くクソ男と別れさせられると安堵して

莉子の元へと近付いた



「ちょ、な、莉子っ!何してんのよっ」



肩を揺さぶってみると
涙が溢れる瞳に俺が映った



「・・・ゔぅ、マスターぁ」


途端に擦り寄ってくる莉子


「アンタ、緊急事態だけど訂正させて貰うわよ?
アタシはママ!何度言ったら分かるのこのオタンコ茄子っ!」


そっと抱き寄せるつもりが
俺の声を聞きながら力をなくしたように

足下から崩れ落ちる莉子を咄嗟に支える


「ちょ、ちょ、莉子っっ」


マスターと動く唇を見ながら
意識が朦朧とする莉子を抱き上げた