「はじめまして」


「いらっしゃい」


オネェ言葉を忘れてしまうほど
その子は綺麗だった


「名前は?」


「中井《なかい》です」


「下は?」


「要ります?」


「教えなさいよっ」


「莉子《りこ》」


「ふーん」


興味ないフリにも限界はあって
質問攻めにしている俺を


莉子は更に興味無さげにあしらった


「マスターおかわり」


「ちょ、アンタ、ママって呼びなさいよっ」


「はいはい」


その視線を独占したくて仕掛けるのに
全く靡かないばかりか
目も合わせて貰えないことに


いつの間にか一生懸命になっていて


沢田と臣に


「「一目惚れか」」と


コッソリ突っ込まれてしまった


「明日もまたおいで?」


「サァ、それは約束できない」


「これは命令よっ」


「横暴」


「なんとでも言いなさいよっ」


「マスターおかわり」


「だからママだって」


「はいはい」


耳障りの良い声も

女を売りにしないところも

美人なのに大口で欠伸をするところも


俺の心を惹きつけてやまない



「莉子」


「ん?」


「明日も来たら、コレ飲ませるけど」


年代もののワインを餌にするなんて
我ながら狡い男だと笑えるが


「うそっ、来る、絶対来るね」


漸くその瞳が俺を映してくれたことに

使えるものはなんでも使う
安い男に成り下がった




この胸の高鳴りは










遥か昔に置き去りにしてきた



むず痒い気持ちに



そっと胸を押さえた