「はい。よろしくお願いします」



出された凛さんの手を握ると
同居を決めた日と同じように
考えるより先に返事をしていた


「良かった」


フワリと抱きしめられた凛さんの腕の中は


いつもの優しい香りがした


「莉子」


「ん?」


「オネェ、やめて欲しければ
いつでもやめていい」


「・・・そんな」


「元々、女避けの為に始めただけで
田舎と違ってこの街に居れば
俺程度の顔なんてゴロゴロいるから問題ない」


凛さんは自分の顔を下げ過ぎだ


「店は?」


「店は趣味みたいなもんで
本業は投資と絵描き」


「・・・は?」


突然出てきた新しいワードに口が開く


「種明かし」


手を引かれて向かったのは
『今度』という名の牽制をされたと思った三階


そこは、天窓がある広々としたアトリエだった


「凄い」


「実はファンも居たりする」


「本当?」


「本当」


綺麗な風景画が数多く壁に立てかけられていて


中央に描きかけのものもある


「・・・これ」


沢山の風景画には
必ず、髪の長い女性と猫の後ろ姿が描かれている


「それ、莉子」


「ウソ」


「去年の春以降の絵には、全部居る」


「・・・凛さん、どんだけ私のことが好きなの?」


恥ずかしくて・・・呟いた声は
いつもの凛さんへ向けてで


もちろん、それを拾ってくれるのも
いつもの凛さんだった


「大好きに決まってるわよっ!
オッサンが一途に片想いしてるんだからっ!」


「フフ」


「なによ!アンタ」


「オッサンて」


「32歳だもの!」


「え、凛さん32歳なの?」


「アンタ、食いつくとこそこなの?」


「だって知らなかったんだもん」


「フフ、莉子らしいわ」


「うん」


男でも女でも凛さんは凛さんで

出て行く為に帰ってきたのに
気がつけば術中にハマってどんでん返し


それがなければ一週間に二回も
失恋することになっていたから


策士な凛さんに感謝するしかない


「ありがとう」


「なに?急に」


「腹黒凛さん」


「ちょ、アンタ!許せないっ!」


喜怒哀楽の激しい凛さんが
今は心地よくて


饒舌な凛さんに勇気を出して抱きついた


「・・・っ、どうした、のよ」


「好き」


「・・・なっ」


「大好き」


「・・・馬鹿、アタシだって大好きよ」


私の思いを理解してくれて
オネェのままでいてくれる凛さんをギュウと抱きしめた












fin