「お世話になりました」




深々と頭を下げてソファから立ち上がる



「じゃあ」



クルリと背を向けようとした瞬間
固まったままの凛さんが顔を上げた



「待って」


「荷物は持てる分だけ持って
後は週末取りに来ます」


早口で用件だけを告げるつもりが


「莉子っ」


初めて、凛さんの低い声に名前が呼ばれただけで


逃げ出したい思いとは逆で


足は完全に止まってしまった


「まだ話は終わってないし
この期に及んで言い逃げか?」


そう言うと同時に長い脚がテーブルを跨いで
目の前に立った凛さんを恐る恐る見上げた


いつもと同じ凛さんなのに
話し方と声の低さに

雰囲気さえ違って思える


「莉子」


泣きたくもないのに
止まらない涙を


凛さんの長い指が掬った


「莉子」


何度目かの呼びかけに

定まらなかった視線を合わせた、瞬間



凛さんの長い指が顎を引き上げた



「・・・っ」



息を飲む間も無く
瞬きを忘れた目に飛び込んできたのは



近づいた凛さんの綺麗な顔



そして



凛さんの唇が



私の唇に




重なった