「なぁ」


「ん?」


「早退、するか?」


「なんで?」


青木に視線を向けることなく
淡々と受け応えるつもりで

手だけは作業を始める


「なんでって、なぁ」


「締切がある」


「どこの?」


「ん?」


「俺が代わりに」


「煩いよ?青木のクセに」


「ハァ??」


朝から明らかに泣いてましたって顔をしているのは私が悪いけれど


早退したって帰る家に困るだけ


モヤモヤした気持ちを押し込めて
モニター画面を見つめていると


ウザい程絡んでいた青木も諦めたのか
話しかけてくることも無くなった


高嶺の花を咲かせたり
泣き腫らした顔で出勤したり


一週間の内にお騒がせ女になってしまった


それでも、今日も凛さんの家に帰らなきゃいけない


痺れを切らしたように
昼休みは自然とNEXTOPへ向かっていた


「いらっしゃいませ、あっ」


気付いてくれたのは日曜日に対応してくれたみよさんで


促されるままカウンター席に座った


「あの、日曜日の物件、借りられそうですか?」


「それがですね・・・」


みよさんは少し眉を下げると
「メッセージは先程送りましたが説明しますね」と前置きしてから話し始めた


「家主様から保留とお返事がきまして」


「保留?」


「そうなんです。あ、えっと
これはよくあることなんですけど
急なので、調査が間に合わないというか・・・その」


なんだか歯切れの悪い話し方に
みよさんを見つめてみる


すると、さらに眉を下げたみよさんは


「もう少し、お日にちを掛けることは可能ですか?」


申し訳なさそうに肩をすくめた


「えっと」


水曜日に出て行けると思っていたから
一刻の猶予もない、というのが本音で

ゆっくり探すとなると


本格的に実家から通うことを考えなくてはいけない


間違いなく老け込むことは決定で


でも、それなら

今日からでも帰れる家が出来るということに


心は落ち着きをみせていた