「水曜日までだから、凛さんと会えなくても
少しでも近くに居たいの」


「そっか、よし!じゃあ頑張れ」


元はご近所だった城山公園近くのマンションへ帰る真澄に手を振って


重い足を引き摺るように凛さんの家へと向かう


あっという間に着いたそこは
主以外を拒むかのように重く閉じられていて


自分が部外者だと思う捻くれた思いから躊躇いが生まれる


「ダメダメ、最後なんだから」


それを払拭するように顔を上げて


渡された鍵でセキュリティを潜って
お洒落な玄関扉を開くと


鋭い視線を向けてくる凛さんが立っていた


「・・・・・・っ、た、だいま」


「おかえり」


「凛、さん、仕事は?」


「休んだわ」


「・・・」えっと


スッと細められた双眸からは
いつもの優しさは微塵も感じられなくて

戸惑いしかない気持ちは視線を彷徨わせる


扉を開いたまま立ち尽くす私に


「とりあえず入ったら?」


「・・・うん」


初めて聞く刺々しい声が降ってきて

違う意味で泣きそうになった


「ついてきて」


逃げ出せないままリビングのソファに向かい合って座った


凛さんの顔を見る勇気もなくて

本当は店に出る予定だったであろう
ネクタイに照準を合わせた
  

「どこに行ってたの?」


「・・・真澄とご飯に」


「それ本当?」


さっきより刺々しさが増した気がして
反射的に視線を上げた瞬間


底冷えしそうな目をした凛さんに息を飲んだ


「本当に真澄なの?」


「・・・・・・なんで?」


疑われている状況が読めなくて不安になる

知らないうちに凛さんを怒らせるようなことをしたのだろうか


考える間も無く、さっきより重い声がした


「店前で色黒を見かけたって聞いたの」


「・・・え」


洸哉が現れたということに驚いているうちに


「山下さんの店に行ったんでしょ?
アタシに内緒で動くくらいだもの
此処を出てよりを戻すってことじゃないの?」


凛さんから告げられることとの齟齬に混乱して焦る気持ちは


涙を落とした





「・・・ち、がうよ、凛さん」