山下さんの軽快なお喋りを交えた質問に答えているうちに


いつの間にか三軒に絞られていた


「一番良いのはEYですが・・・
此処じゃ引っ越した意味がないですよね」


「・・・確かに」


「でも、立地的には此処が一番
ま、自社物件なので持ち上げてるのはありますが」


「フフ」


洸哉の所為で優良物件を手放したのが
つい四日前なのだ


「山下さんなら、この三つならどれを選びますか?」


不動産屋さんには素人には分からない見解があると思う


そう思って聞いてみたのに

山下さんはプリントアウトした三枚を見比べて悩み始めた


「甲乙つけ難いとか?」


美人は悩んでいる姿も秀麗だな
なんて見惚れていると

男性が近づいてきた


「みよ、問題か?」


「ん?あ〜、と。この三つなら
どこが良いかな〜って考えてたの」


名前呼びと、一瞬で山下さんの口調が甘く変化したことも含めて親子かなと思った


二人を交互に見ていると私の視線に気付いたのか


男性が「娘なんです」とネタバラシしてくれた


勝手な妄想をしている間に
実は社長さんだという山下さんが選んでくれたのは

レガーメの裏側に建ったばかりの単身者用マンションだった


「表通りからは一本入った裏通りですが
ここなら通勤も傘要らずだし
買い物はミニスーパーまで徒歩圏内
オートロックだし、交番が近いのもオススメですよ」


「実際の部屋を見られますか?」


「はい、これからご案内しましょうか?」


「是非」


「じゃあ、お父さん。中井さんのご案内が終わったら私も戻るわ」


「あぁ、ありがとう」


「じゃあ、中井さん行きましょう」


「はい、よろしくお願いします」


山下さんは“ご案内セット”という名の
必須アイテムが入ったバッグを肩にかけると


首から名札を外して従業員さん達に手を振った


「早退ですか?」


「あ、違うんです。私、レガーメの四階にオフィス構えてて
とは言っても大した仕事もないから
実家のお手伝いという名の恩を着せてるんです」


「フフ、恩を着せるって」


表現もそうだけど山下さんは
顔からは想像できないくらいフレンドリーで
初めて会った気がしない


「早くに結婚しちゃったから
父親に会いたいってのもあるんですけどね」


「結婚?」


確か名札は山下だった


「あ〜、名札は旧姓を使ってるんです」


「そうなんですね」


少しのお喋りの間に着いてしまうほどの立地にテンションが上がった