「莉子ぉ」
「中井」


完全なる酔っ払いの癖に
私の涙に気づいた二人は

これでもかと言うくらい眉を下げている


「この子、もう寝かせるから
アンタ達は良い子で帰りなさいね」


私の涙を凛さんの指が拭って
それもまた新たな涙を生むことになった


「は〜い、莉子は凛子ママに任せま〜す」


小学生みたいに綺麗に手を上げた真澄と


青木は私の頭を一度クシャリと撫でてから


「凛子ママ、チェックお願いします」


財布を取り出した


「今夜は良いわよ、私の奢り
この子をこれからも守って貰わなきゃなんないからね?」


他のお客さんを追い出した時には
怒っていた癖に

凛さんは急に甘くなった


「ご馳走様で〜す」
「ご馳走様っす」


それに簡単に乗っかる二人は
凛さんにタクシーを呼んで貰って

私のことを気にしながらも帰って行った


「少し待てる?」


店の鍵を閉めた凛さんは
片付けも残っているはず


「先に帰ってようか?」


気を利かせたつもりなのに


「アンタを一人にしたくないからね
そこに座ってなさいよ」


優しい声でそう言われたら断れない


「うん。じゃあ待ってる」


手伝うことも考えたけれど
ふわふわする程酔っているのを思い出し

邪魔をするだけだと諦めた


いつものカウンターのいつもの席で

店仕舞いをする凛さんを目で追う


そんな私に気付いているのか
時折視線を合わせては微笑んでくれるから

益々目を離せなくて・・・


背後のボックス席のテーブルを拭いている凛さんを見るために

身体ごと振り返った時点で


自分の想いを認めることにした




私・・・凛さんのことが好き





洸哉の浮気現場に遭遇して二日


薄情過ぎる気持ちの変化に戸惑しかない



それでも・・・



洸哉のことを深く考える暇もないくらい


前を向くキッカケになっている気持ちを


報われないとしても大事にしたい



認めた伝えられない想いは
やっぱり涙に変わった