「凛子ママ、中井ヤバいんっす。俺、彼女居なきゃ告ってるっす」


「なによアンタ、聞き捨てならないわねぇ」


「これまで会社では表情筋なんて使ったことなかった中井が
話しかけられたら応えるし笑うし
挙句の果てには携帯電話操作しながら笑ってるんっす」


「ふ〜ん」


「なんというか隙だらけで
男とすれば、その隙間に入り込みたい願望しかないっす」


ですますを語尾に付ければ良いと思っているのか
部活のノリそのままに興奮して話す青木はいつもより饒舌だけど

どう考えてもディスられているよね、なんてボンヤリ聞いていれば


ふーん、なんて聞いていた凛さんは
一度口元を緩ませて一喝した


「アンタには“ちんちくりん”がお似合いよっ」


「ちんちくりんってなんすか?」


「熊のアンタに150センチのふわふわした彼女がいれば
それはもう“ちんちくりん”でしょ?」


フフと笑う凛さんはやっぱりイケメンで
青木とのやり取りを見てるだけで
ワインのボトルが空きそう


「んで?アンタは何の花を咲かせたのよ」


凛さんに見惚れていた私に
急に話が振られて


「・・・ブッ」


驚きにワインを噴いた


「ちょ、アンタっ!」


慌てて手を口に当てたから凛さんまでは飛ばなかったけれど
手とカウンターは防げなかった


「やだ、この子ったら」


おしぼりを出しながら
手早く私の手を拭く凛さん

その長い指に触れられただけで
胸が強く騒ぎ出して酔いが回ってきた


「はい、終わり」


カウンターも綺麗に拭き取って
新しいおしぼりを手に握らせてくれた凛さんは


「酔ったの?」


グッと顔を近づけてきた


「・・・っ」


綺麗な手が頬に触れる

ただそれだけのことなのに


いつもより早い鼓動が感情をかき混ぜてきて


・・・あ


マズイと思った時には
涙が溢れ落ちていた