「おはよう」
「おは、莉子っ」


ズル休み明けの金曜日
更衣室に入って直ぐ駆け寄ってきた真澄は
眉を下げて頭を撫でてくれた

携帯番号を新しくしたから
キャリアメールも変更したし

SNSやメッセージアプリは
全て新規で始めることになった

それを昨日のうちに伝えたのは真澄だけで

後はゆっくり選別しながら連絡しようと思っている


「今夜でも飲み行く?話、聞くよ?」


「じゃあ、行きますか」


「うんうん」


凛さんが玄関まで見送りに出てくれた時に『今夜は真澄に誘われるわよ』って笑っていたことが現実になった


「じゃあ、夜まで頑張ろう」


元気印の真澄を見ながら
ロッカーの鍵を閉めるとフロアへと出た




・・・




一日振りのオフィスは相変わらず活気で溢れている

私のデスクのあるWEBデザイナーが並ぶ三課は一転静かで


上司である沢田課長に昨日の休みのお詫びついでに頭を下げると


「入社以来初のお休みだったから
昨日は大騒ぎだったよ」


意外な答えが返ってきた


「大騒ぎ?」


仕事は余程でない限り各自で進めるもので
今はチーム案件もないから誰かの手を煩わせたりもない

大騒ぎの意味が分からなかった


「“中井さんが見えない”って
入れ替わり立ち替わり野郎達が訪ねてくるからさ
途中、青木が中井さんのパソコンに“病欠”って付箋を貼ったんだよ?」


昨日のことを思い出しているのか
沢田課長はクスクスと笑い初めた


「色々お騒がせしました」


聞いたからにはそれもお詫びに加えた


「昨日の今日だから調子が悪い時は遠慮せずに言うこと」


「はい」


もう一度頭を下げてデスクに向かうと
付箋を貼ったままのモニターが見えた


「中井、大丈夫かよ」


「うん。もう平気、なんかごめんね?」


謝りながら青木の貼った付箋を剥がしてヒラヒラと揺らしてみる


「高嶺の花が休むからさ、ほんと
仕事であんなに喋ったの初めてだぞ?」


心底嫌そうな顔をしているから
余程嫌だったに違いない


「お詫びにランチ行こうぜ?」


「奢らないわよ?」


「そんなの分かってるって
そこまでゲスじゃねぇさ」


「フフ、じゃあ了解」


「お〜!やったぁ」


奢られないランチに行くだけで喜び過ぎだ

そんな私の視線に気づいたのか


「昨日の奴らより近いってっていう優越感?」


青木はそう言うと無邪気に笑った