「一緒に寝るって言ってもさ
アタシは店があるから並んで寝るなんて僅かな時間だけよ?」


一緒に寝るの意味を深く捉えて
気持ちを上げ下げする私の脳内を読んだかのような答えに


「・・・そ、だよね」


隠しているつもりが隠せない動揺

せめて一緒に暮らしている間だけでも
バレないように努力をしなきゃ


そんな私の両手を取って
視線を合わせた凛さんは


「頭で考えると難しいんだから
これは慣れるしかないのよ?
だって〜!イケメンに慣れるチャンスじゃない??」


そうやって私を笑わせてくれた


だから・・・


「中井莉子二十四歳!今日から凛さん家でお世話になりま〜す」


「フフ、よろしい」


凛さんに気を遣わせないように
頑張るしかない!





・・・






午後からは凛さんに指示されるまま
色々な停止手続きをネットで済ませた


「ガス、電気、水道、郵便・・・」


指折り数えるだけで引っ越しって面倒

手荷物だけで出て来たけれど

引っ越し業者への依頼だってしなきゃ


役所へは・・・どうしよう

もしか早い段階で転居するなら
届け出をする必要もないかもしれない


タブレット端末を眺めながら
悩む私の隣に腰を下ろした凛さんは


「会社にだって転居届出す必要があるでしょ?
健康保険証だって、なんだって
全て住所が必要なの。躊躇っているアンタがおかしいわ」


悩みを玉砕してきた


「それにね・・・」


凛さんは人差し指をピンと立てると


「マンションは退去連絡済んでるし
引っ越しも手配済み」


そう言うと綺麗に笑った


「・・・早っ」


「マンションの大家さん知り合いなの」


「・・・へ?」


「レガーメの一階のNEXTOPでしょう?」


「うん」


「山下社長は知り合いなの、直接話したから大丈夫だし
今回は急ぎの案件ってんで、今頃鍵も交換されてるはず
莉子はもう入れないわよ?」


「・・・マジ?」


「うん。マジ」


「仕事、早くない?」


「あら、嫌〜ね〜!この子ったら
“仕事が出来る”のほうが褒め言葉よ」


「・・・確かに」


大したこともしないまま
私の引っ越しは終わったらしい