「・・・そう」


アッサリと離れていく距離が
凛さんと私の明らかな隔たり


騒がしいままの胸は此処に住む間は
一生分働かせるつもりで頭の中を切り替えた


「凛さん、暫くの間よろしくお願いします」


丁寧に頭を下げた


「暫くってなによ、ルームシェアなんだから
いつまで居たって良いんだからねっ」


瞬く間に通常通りの凛さんに


「彼氏とか彼氏とか彼氏とかの恨みを買いたくないので〜」


精一杯戯けてみせる


「アンタ、また三回も言ったわねっ」


追い立てられるまま乗り込んだのは
ホームエレベーター


「・・・ウソ」


「今回だけよ?荷物が多いからね」


驚いている私にそう言って片目を閉じた凛さんは


「老後の為に奮発したんだから」


腰に手を当てて笑った


・・・老後って


現実味はないけれど面白過ぎる答えに

滅多にお目にかかれない
浮世絵離れした生活を楽しもうと


同じように腰に手を当てて笑うことにした


「アンタ、ウケる」


凛さんの笑いは暫く止まらなかった


二階のワンフロアが居住スペースで
三階はまた今度案内してくれるらしい


「莉子はこの部屋を使って」


凛さんの寝室の向かい側の部屋は
何も置かれていない七畳程の洋室だった


「洋服は此処」


壁一面に備わるクローゼットの扉の中は


いくつも仕切られていて圧巻


「下着とかは此処ね」


四段ある引き出しの一番上は
収納しやすい仕切り付き


「すごーい」


「でしょう?」


期待も裏切らない返しに満足したところで


「キャリーバッグの中身を片付けたら
リビングにいらっしゃい」


凛さんは気を利かせてくれたのか
部屋を出て行った


「よしっ!」


大小二つのキャリーバッグを広げて
広いクローゼットに収納していく


あっという間に片付いたけれど


「少なっ」


スカスカ過ぎて悲しくなる


仕事と家と洸哉だけだった私は
これだけでも充分だった


「なんか、私って可哀想」


頭に浮かんだのが“不憫”の二文字で
それを打ち消すように声にした


考えても仕方ないことは
ゆっくり頭の中から消していけばいい


キャリーバッグを閉じて
クローゼットの隅に並べると

扉を全部閉めて部屋を出た