キャリーバッグの大きい方を凛さん
小さい方を私が引いて


大学入学から五年も住んだマンションを後にした


中央駅まで歩いても僅かな距離だけど
荷物が多いからと凛さんはタクシーを手配してくれていた


「一緒に歩くのも、タクシーに乗るのもはじめてね」


気分は最悪なのに
そう言われただけで楽しくなるから不思議


「あっという間に着くのにね」


フフと笑えば


「もぉーアンタって面白味がないわっ」


憤慨したように脚を組もうとして
長過ぎる脚を持て余して諦めている


「・・・フフ」


やっぱり凛さんは素敵な大人だ
私の変化を敏感に感じ取って
空気をガラリと変えてくれるところなんて天才だと思う


「莉子はお子ちゃまなんだから
甘えてれば良いのよ?」


ほらね?気配りもできる良い人


これまでなら“マスター”と“莉子”でいられたのに


今の私はどうかしているみたい



振り向いて貰える訳ないのに


凛さんが気になって仕方がない



洸哉のことで頭はいっぱいな筈なのに


洸哉との関係が崩れたことより

凛さんの方が気になるなんて・・・


やっぱり・・・おかしい


気付かないフリをするつもりが
その気持ちに理由をつけようとしている




この胸のモヤモヤも



視線が絡むたびに跳ねる胸の意味だって




行き着く答えは



ひとつだった