「なに、わかりやすい?」


「ん?私は分かったけどさ〜
他の人なら難しいレベル?」


「・・・青木にもデートかって聞かれた」


「あ〜、まぁ、同期三人の特権みたいなもんでしょ?」


「ふ〜ん」


「高嶺の花の笑顔なんて同期しか拝めないんだから
他の人は気付かないって」


同期入社が青木と真澄と私の三人だけだから

仲間意識が高いというか仲良くなるのに時間は掛からなかった


「高嶺の花って・・・いつまで言うのよ」


「はぁ〜?何度だって言うわよ?」


両手を広げて呆れた顔をする真澄から視線を外して


ロッカーの中から荷物を取り出した


入社早々に先輩達から誘われまくり

あまりの面倒さに少しも期待させない態度で全てを断った結果
“高嶺の花”なんて噂が出回ることになった


・・・最悪


本当は付き合って一年半になる彼に
嫌な思いをして欲しくないという純粋な乙女心


でも、それを言うのは恥ずかし過ぎて
冷たい言葉で断ち切ってしまった

その皺寄せが“高嶺の花”って
今時そんな表現ってある?


小さくため息を吐いて
ブラウスの胸元のリボンを結び直した


うちの会社はオフィスカジュアルで
更衣室を使うのは荷物を出し入れする時だけ


着替えもないから楽な分
カジュアルとはいえそれなりの格好を心掛けている


今日はこれからのことを考えて少し気合を入れてみた


「彼氏?」


「うん」


「ご馳走〜様〜」


ハンドバッグを持ち替えて
ロッカーについている鏡でサッとメイクをチェックした


「パウダールームに寄る?」


「もちろん」


「じゃあ、付き合うわ」


真澄と同時にロッカーを閉めて
お目当てのパウダールームへと向かった