「ほら」


ソファの隣に腰掛けて
広げられた両手の中に迷いもなく飛び込んだ


「・・・ん」


「馬鹿ねぇ、あんな色黒の為に泣くんじゃないわよっ」


すっかりオネェ口調に戻った凛さんの腕の中はやっぱり居心地が良い


グズグス泣く私を
慰めるように背中を撫でる手も

若干早く聞こえる鼓動も


仄かに香るシャンプーの匂いも
今の私には全部必要


Tシャツの胸元に擦り寄る私は

昨日と同じように凛さんの服を
涙でベタベタにして


落ち着いたと同時に


「アンタ!三度目は洗濯させるわよっ」


最後は凛さんのお叱りで意識が浮上した


「今日で最後にしなさいよ?」


「ごめん、ね?」


胸元がシットリ濡れたTシャツに頭を下げてみる


「コレじゃないわよっ、涙に決まってるでしょ!」


更には気持ちよく突っ込まれた


「アンタ、またブスになるわよ?」


「・・・っ」


そこは否めないから諦めることにして


「片付けたら帰るね」


テーブルの上にあるままの
朝食の名残りに視線を移した


「な〜に言ってんのよっ」


「ん?」


「アンタ、今日はやる事沢山あるのよ?」


「・・・へ?」


「携帯電話の番号変更に部屋の確認
それが無事でも、一週間ほどは
アタシがアンタを預かるから」


「・・・?」


「色黒が言ったこと忘れたの?」


「いや、覚えてる?」


「い〜や、アンタ何にも分かっちゃいないわ」


「・・・?」


「男は案外女々しいもんなんだから
簡単に手放したりしないものよ?
それをさせないためにも徹底的に繋がりを切らなきゃ」


「・・・切る?」


「そうよ。どうせ分からないだろうから
今はアタシに従ってなさいよ」


「・・・それは」


「なによ」


「凛さんのこれまでの経験上なの?」


「フフ、アンタにはない修羅場は
熟してると思うわよ?」


「・・・凄っ」


「てか、初めての彼氏だったの?」


「うん」


「じゃ〜、アタシに任せて正解よ」


そこまで言うのなら余程自信があるのだろう

さっきまで泣いていたこともスッカリ忘れて


「よろしくお願いしま〜す」


凛さんに従うことにした自分を
二時間後、間違いなかったと思い知らされることになるなんて


この時の私には想像もつかなかった