「凛さん、お風呂ありがとう」


ハンドタオルを頭に巻いて
モコモコパジャマでリビングに戻った私を


凛さんは鳩豆顔で出迎えてくれた


「・・・んと、へん?」


そんなに驚く格好でもなさそうだけれど
もしかしてホラー顔とのギャップに驚いているのかと頬に触れた


「アンタ!髪を乾かさなきゃ」


「ん?・・・あ、そうだけど」


「乾かしてから寝ないと
髪にダメージが残るし、風邪ひくじゃない!」


「ん、ま〜そうなんだけど」


テンションが上がった所為で
いつもより長湯だったから

凛さんに明け渡さなければと急いだ結果がタオル巻きだった


「女子力低いわね」


意地悪そうに笑う凛さんは
そのままリビングを出て行ったと思ったら

ドライヤーを手にして戻ってきて


「ほら、此処に座りなさい」


「あ、うん」


ソファに腰を下ろした私の後ろに
ドライヤーを持って立った


「えっと、自分で・・・」


「良いのよ、女子力低いんだから
素直に乾かされていなさいよっ」


「・・・」


結局大人しくされるがままになった


私より女子力が高いらしい凛さんは
流行りの筒状のドライヤーを持っていて

その動作音が静かで
お喋りが出来ることに驚く


「綺麗ね」


「そう、かな」


洸哉が好きだった髪を
褒められただけで酷く胸が苦しい


「もう、馬鹿ね」


そんな私に気づいた凛さんは
ドライヤーを止めると隣に座った


「アンタのことなんて全部知ってるわよ?
あの色黒が好きな髪型をしていることも
馴れ合いになりたくないからって
色黒の部屋にアンタの物を置いてないことだって」


「・・・ぅ、・・・」


「でもね、男と女なんてそんな綺麗なもんじゃないの
分かったら今夜はアンタに付き合ってあげるから
とことん泣きなさいっ」


その長い腕が伸びてきたと思ったら
急に視界が暗くなった



「・・・」


それが凛さんの腕の中だと気付くのに数秒


フワリと鼻腔を擽るのは
凛さんがいつもつけている香水


その香りに包まれながら


居心地の良い腕の中で
込み上げてくる涙を抗うことなく解放した