凛さんが“チャチャっと”作ってくれたのは
水菜とキノコの和風パスタとスープだった


「美味しい」


“チャチャっと”とは思えない出来栄えに
泣いていたことを忘れるくらいの速さで完食して


「どんだけ腹ペコだったのよ」
と大笑いされた


せめてものお返しにと皿洗いを申し出た私に


凛さんは「よろしく」とキッチンを任せてくれて
その間にコーヒーを用意してくれた


「今度はコッチ」


何故か動く度に手を繋がれているけれど
そこに特別な違和感も感じず



黒い革張りのソファに腰を下ろした


「お腹が満たされたら少しは落ち着いたかしら?」


「・・・うん」


「今夜は此処に泊まると良いわ」


「・・・え?」


自宅マンションは此処からは然程離れていないし

夜だからといって気を使われる距離じゃない

そう思った私に


「だって、アンタ酷い顔よ?」


凛さんは片眉だけを上げるとそう言った


「・・・!」


確かに目が覚めてからの視界はいつもより狭かった

でもそれが“酷い”に繋がるのだろうか?


「ほら」


ソファの前にあるローテーブルの
真ん中あたりについている引き出しから手鏡を取り出し私の手に持たせた


「・・・・・・嘘」


泣いた所為で腫れた目蓋より
いつもより念入りに引いたアイラインとマスカラが

見事なほどに剥がれ落ちて
パンダ崩れのホラー顔になっていた

凛さんはこの顔を見ながらパスタを食べたの?


「ねぇ?酷いでしょう」


ケラケラと笑う凛さんは座っているのに倒れそうな
私の羞恥心なんて気にならない風で


「どうせお泊りの支度してるんでしょ?
だったら無闇に酷い顔を世間様に晒すより
此処に泊まった方がよくない?」


閃いたように笑った


「・・・ゔぅ」


悔しいけど余りに正論過ぎて
悶えるように頷くしかなかった