「好き嫌いは?」


「えっと、ウニとピータン?」


「フフ、間違っても出さないから大丈夫よ、安心してなさ〜い」


「良かった」


「チャチャっとパスタね」


そう言って手際よく作業する姿は
どこからどう見てもイケメンシェフ

気がつけば凛さんの手ばかりを見ていた


「ほら、ボーっとしてないで
ランチマット敷いて準備しなさいよっ」


「あ、ごめんね?」


キョロキョロしてみたけれど
ランチマットなんてダイニングテーブルの上はおろか
カウンターにも一枚も見当たらない


「こっち」


濡れた指が差すのは
カップボードの引き出しで


トンと椅子からおりるとキッチンの中へと入った


「此処?」


「うん。中にいくつか入ってるから
好きなの取って〜」


促されるまま引き出しを開けると
カラフルなシートが綺麗に収められていた


色の入ったシートを避けて取り出したのは
アイボリーの二枚


それをダイニングテーブルの上に乗せると

カウンター席に戻った


「アタシも好きよ?その色」


凛さんの視線はダイニングテーブルに向けられていて


穏やかに笑う様子を見ながら
またひとつ気持ちが解れていくのが分かった


「何枚かランチマットがあるけど
彼氏とか彼氏とか彼氏とか来るの?」


「アンタ、三回も言ったわね」


拳骨をハァと温める仕草に


「ハハ」


笑いが止まらない


「残念ながら誰かを家に入れるのは初めてよ?」


「・・・え」


「店と家が同じ分だけ線引きはしっかりしてるの!これでもね?」


「ごめんなさい。なんか、私」


「い〜のよ、莉子は
まぁ、行きがかり上?というか
緊急事態だったからね?」


「でも、ごめんなさい」


「それを言うなら“ありがとう”にしなさいよっ、気が利かない子ね」


「あ、ごめ、ありがとうございます」


「フフ、それで良いわ」