♪〜♪〜



夕刻、終業のチャイムが鳴ると同時に
フロアは一斉に騒つき始めた



「「「お疲れ」」」
「「「お疲れ様でした」」」



彼方此方で上がる声を聞きながら
手早くパソコンをシャットダウンすると、私も同じように立ち上がった


「中井、デート?」


向かい側で立ち上がった同期の青木基《あおきはじめ》がニヤついている


「違う」


短い言葉で断ち切って更衣室へと脚を向けた


青木のトンチンカンなんて今日始まったものではないけれど

顔を見ただけで『デート』なんて
私の頬が緩んでいたのだろうか?


頬に手を当てながら
広い廊下を足速に歩いた



・・・



街の中心駅の向かい側に聳え立つ複合型商業ビル“レガーメ”


大通りに面した立地もあって
この街のトレンドが集中している


そのレガーメの五階にある
Office Kが私の勤める会社


WEBデザインを主とした制作会社だ


レガーメの五階からはオフィス事務所が連なるフロアで

吹き抜けのある四階までとは違う雰囲気


共用スペースはこの街のどのビルより洗練され充実していて兎に角お洒落


「お疲れ〜」


更衣室に入った途端に掛かった声に顔を向ければ


総務課に所属している同期の城崎真澄《しろさきますみ》が小さく手を振っていた


「お疲れ」


「どうしたの?なにか良いことあった?」


食い気味の真澄を交わしながら
ロッカーに鍵を差し込む


「ん?ないよ?」


「え〜だってぇ、莉子《りこ》ったら頬が緩んでる〜」


「え」


さっき触れたばかりの頬に手の平を戻した