「ずっと前から好きです、俺と付き合ってください!!」

廊下中、否、建物中に一人の男性の声が響く。琴花枝(ことはなえ)は、帽子を取って深く頭を下げ、右手を差し出す男性ーーー折本麦(おりもとむぎ)を戸惑いながら見つめる。周りからの視線が痛い。

ことの始まりは、花枝が地元を出るまで使っていた車の免許の書き換えのハガキがマンションのポストに届いたことである。

「あ〜、もう車運転してないんだけどな……」

憧れの都会に飛び出し、アパレル店員として働き始めてからはずっと電車かバスしか使ってこなかった。だが、せっかく取った免許なのだからと考え、警察署に行くことにした。

モスグリーンのロングワンピースを着て、パールとリボンのついたピアスを耳につける。そしてメイクを施し、お気に入りのかばんを手に外に出る。

「何もない日も綺麗にしてたいよね」

おしゃれをすると気分が上がる。花枝は鼻歌を歌いながらバスに乗り込み、数十分ほどで警察署についた。