朝、キスして。


「優しい子がいたんですね」

「はい。……まぁさすがにおんぶは無理だったけど。でも、肩を貸してもらって登りきりました」


穏やかに優しく。

まるで懐かしむように紡いだ話は、私の記憶から抜け落ちていた話だった。


だけど、言われて思い出した。


小学4年生の遠足で同じ班になった私と瞬。

5、6人くらいで一緒に登ったんだけど、途中で瞬が足を捻っちゃって……。


応急処置はしたけど先生から『車で連れていく』と言われた瞬が、珍しく『俺もみんなと一緒に登りたい!』と駄々をこねた。


私は、そんな瞬の思いを聞いてあげたいと思った。

なにより、私も瞬が一緒じゃなきゃ嫌だったから。


だから……

『わたしが瞬をおんぶする!』

後先のことなんて考えずにそう言った。


……あったわ、そんなこと。


いや憶えてるはずないよ。

だって私、あのとき……泣きじゃくっていたんだから。

『瞬が死んじゃう』って大げさに。