ハルくんと別れたあと、行くあてがなくて階段に座っていたら、回想していたらしい。

懐かしくて笑っちゃうくらい私の頭に優しく残っている記憶。


「はい」

『何してんの?』


電話の相手は瞬。

不満そうなのが声だけでわかった。


「階段で座って、思い出にふけってました……」

『いやマジで何してんの。俺、有咲を呼んだつもりだったんだけど?』

「ごめん。向かってる途中で優雨ちゃんに会って……」


声調の正体は、呼びつけたのに私が来ないことへの不満だったらしい。

ひとこと連絡を入れてあげればよかったんだろうけど、そのあとハルくんと話していたからできなかった。


「優雨ちゃんと話した?」

『話したよ。全部聞いた』

「そっか……」


瞬はどう思ったんだろう?

電話じゃ表情が見えなくて不安が募る。

見えたところで何を思っているのかわかるわけじゃないけれど、それでも顔を見たい。


瞬に──


『会いたいんだけど』