朝、キスして。


私の前で立ち止まって、

「こんなところでどうしたの?」と訊いてくる。


こんなところ……。

辺りを見回せば、特別教室が並ぶ校舎の廊下を歩いていた。


授業がないと人通りすらないここはガラーンとしていて、電気が点いていないから肌寒さと暗さがある。

賑やかな教室がうるさくて逃げたら、こんなところまで足を運んでいたらしい。


「有咲こそどうして?」

「人に呼ばれて」


苦笑いをこぼした有咲。

そんな彼女に、あちこち走り回って大変だね、と労いの言葉をかけてこの場を流してもよかった。

けれど……。


「それ、少し遅れても大丈夫?」


引きとめることにした。


「え?……うん、大丈夫だよ。大した用じゃないと思うから」

「私に話があるって言ってたよね。今してよ」


この先する予定なら今しても変わらない。

なにより私は、知って困るような話を聞いてしまったら、有咲みたいに今まで通りにとはなれない。