朝、キスして。


ドアを挟んだすぐ向こうに鍵が置いてあるはずなのに、その鍵がなければドアは開かないという絶望的状況。


「さいあく……」


この言葉がこんなに似合う状況はなかなかお目にかかれないと思う。


朝に時間の余裕があれば、鍵の忘れに気づけたかもしれない。

長い傘じゃなくて折りたたみにしておけば、パクられずに済んだかもしれない。

もう少し早く帰るか遅く帰るかすれば、雨への対処ができたかもしれない。

──悔やんだって後の祭り。


それでも、“不幸中の幸い”という言葉があるように、不運続きのなかにも好機はある。


こういうとき、近所付き合い──それも挨拶する程度ではなく、気軽に家へ入れるほどのつき合いを普段からしていてよかったな、と思う。


踏みまくったドジを知られるのは恥ずかしいけれど、この際、背に腹はかえられない。

私は、隣の渡辺家──瞬の家に向かった。



ピンポーンとチャイムを鳴らすと、瞬ママが出てきて。


「有咲!?どうしたの?」

「傘パクられて、鍵を忘れました……」

「えぇ!?とりあえず早く入って!風邪引いちゃう」


ありがとう、神さま仏さま柑奈(瞬ママ)さま……!