朝、キスして。


***


しとしとと雨が降る日。

初めて入る何かの準備室に、窓の外から聞こえる雨音が妙に響いていて、ごくり息を呑む。


入ったと同時に閉められたドアに背をつける私は、逃げ場を失った。

目の前には瞬。

後ろのドアは、瞬が手をついていて開かない。


薄暗い部屋の中、向かい合う私たち。

見上げると視線が重なって、その距離が近くなる。

鼻と鼻が触れるところまで来て……。


さて。なんでこんなことになっているのかと言いますと──


さかのぼること約15分。

5時間目も3分の2が過ぎ、授業の残り時間が気になり始める頃。


不意に、背中に何かが触れた。

いきなりのことでびっくりして、身体が小さく跳ねる。


授業中に後ろから触られるなんて、犯人は1人しかいない!

いや、背後霊とかだったらわからないけど……。


小さく振り返ると、やっぱり犯人は瞬で。

触れた何かは手だった。


だけどそれは、意地悪とか出来心とかではなく。


片腕を枕にして伏せる瞬。

そのせいで手が投げ出され、机からはみ出したのだとわかった。


寝てる……。

もう!びっくりさせないでよ。


と心の中でツッコミつつ、椅子を引いて距離を取る。