『瞬なら教室に行ったよ』


どこからともなく聞こえた声に振り返って。


『教室?なんで?』

『森下を迎えに。このあとデートするらしい』


彼らは平然と答えた。


「……は?」


……え?


「さっき女子たちが騒いでた。瞬から誘ったんだってさ」

「そんなわけねぇだろ!だって瞬は……っ」


私と目が合って、吉田くんは、はっとしたように言葉を呑み込んだ。


「でも、そう聞いたし」

「現に瞬が教室へ行くところも見たし、なぁ?」

「うん」


正直、そのあとの彼らの会話は私の耳に入っていなくて。

気づけば靴に履きかえて、さっさとその場から立ち去ろうとしていた。


「有咲!ちょっと待って!」

「……なに?」


吉田くんに腕を掴まれて引き止められるまで、頭の中が黒い渦に侵されたみたいに何も考えられなくなっていた私。

声のトーンが思わず落ちる。


「瞬を待たねぇの?」

「どうして?私には関係ない」

「いやまあ、そうなんだけど……そうでもないような…?」

「……?」