【1話 過激】

夏が秋に変わる頃。つまり二学期だ。

朝の少しひんやりした空気が肌に染み込む。

今日は早く家を出たから、少しふらつこうと思った。

だが、街はそんなに静かなもんじゃない。


「下がって下がって!!安全区域に入りなさい!!」


いつからこうなったんだろうな。

今、この日本の社会は「元素社会」と呼ばれるようになった。

元素を必要以上に体に取り込み、超人的な力を得られる薬が発明されたせいだ。

その目的や発明者は不明。

それゆえに、その薬は一部の者に悪用され、その集団は「エレ」と呼ばれるようになった。

それからというもこ、その超人的なエレに対抗するために「元素ポリス」ができ、日本は元素が多く巡る国となった。

エレは、一定以上の元素を保たないと生きられないらしい。まさに薬物と同じだ。

だからたまに、人を襲い、その分の元素を取り込むため危険視されている。

今は、防犯線が敷かれているが、どこに拠点があるかも、抗争がおこるかも未だわからない。


この始末で、朝から怪我人が出ることもしばしばだ。



「ねーねー!あれ、もしかしてE 7!?ちょっといってみよーよ。」

「だめだろ。エレがあの区域にいるんだぜ。絶対殺されるに決まってんだろ。」

「そんなの口先だけでしょー?殺す目的だってよく分からないし、、」

 
2人の男女のグループの声が耳に入る。

実際エレに遭遇なんて事はあんまりないから、珍しがってきたのだろう。

まぁ、そんな僕も少し気になって見にきた野次馬の1人に過ぎない。


「ちょっと待って!?黄檗様だ!!!絶対見に行く!!」


そう言ってひとりの中学生女子は裏路地にはいった。

もう1人の男子はその後を追う。


「やめとけって、いくら警備が薄くても、、、」

「黄檗様なんか滅多に見れないよ!それにこっちにエレがいるわけ、、、」


女子中学生は言葉を止めた。

前にいる男子が怯えて腰を抜かしているからだ。


「え、、、、、エレ、、、」


その言葉を聞いて女子も固まった。

2人の目の前に居るものはまさに人外。
ニヤリと笑った口角はありえないほど広がっている。


2人は目が泳ぐほど怯えきっていた。

だがその時。


「あーあ、やっぱ来てよかったかもな。」


その声を聞いて2人の目は一瞬輝いたが、すぐに消えた。

目の前に立っているのは男子高校生らしき人。

てっきり元素ポリスがきたものと思ったからだろう。


「なんだよ。そんな目で見ないでくれよ。しょーがないだろ、誰も来ないに越したこと無いんだから」


2人はまだ呆然と座り込んでいて何も話さない。

と、そこにエレが口を挟んできた。


「んー。どうしようかな、3人も要らないんだよな」


相手は少し困ったそぶりを見せた。

僕は冗談じゃないという風に答える。


「面倒臭いんだけど、、まぁエレと対戦できるのは光栄かな」


そう言うとエレはこちらに向かって手を伸ばしてきた。

皮膚を柔らかくし、弾力性を上げつつも伸ばすことができる元素だろう。
           ・・
まぁそんな事を考えてもあれが今手元にあるわけじゃないから、

少し応戦するか。

僕は伸びてきた足や手を避けながら散々相手を罵った。


「へー。皮膚が伸びるって事はなんの成分だろな、まずタンパク質だろ、それに脂質と灰分。あと何だっけ?」


するとエレは余裕で攻撃を交わす相手に対してイライラしながらもニヤリと笑った。


「高校生だな?元素記号を覚えたってエレは数え切れないほどいる。それに肝心なものを忘れてるぞ。それに避けてばっかりだと疲れてくるだろう?なんせ先輩方がE 7相手に戦ってるか、、、、ゴハッ」


彼の話が途切れ、彼は液体を吐き出す。


「怪我人はいないか?」


その声は元素ポリスのE 7だった。


「僕1人なんで大丈夫です。」


すると先程のエレはしまったというように顔をしかめた。

(くそっ!あいつ、、あいつらを逃しつつE 7に通達させたのか!!)


そして、E 7は安心した様子で続けた。


「人命救助、そして安全に拘束できる事に感謝する。
君の高校を聞いてもいいか?」


その様子をみて僕は静かに笑った。


「お礼は要りません。僕が勝手にやった事なので。
名前は走灯白露と言います。では」


そう言って僕は立ち去った。

多少マスコミに阻まれて色々質問されたが、身を交わしながら駅へ入って行った。


僕は電車に乗り、じっくり考えた。


あれはたしか氣の長官、黄檗梁だよな。

E 7の現場入りは相当珍しい。そして、極めて危険なエレがさっきあの場にいたって事だ。

だがあいつはそれほど取り込んでる様には見えなかった。

それにしても、ナイロンを今日に限って持ってきてないのが悔しいな、、

あれだとあのエレの体の水分一発で大量に吸えたのにな。



そんな事を考えていると、元素ポリスの学校の前に着いた。

すると僕の方を見るや否や、軽く人だかりができてしまった。

「え!ねぇこれ君だよね?転校生!すごいよ素手でやり合うとか戦闘科の上位にも負けてないよ!」

「名前走灯白露だっけ?友達になろーぜ!」

「走灯はどこの専科に入るんだ?」


どうやら朝の事がもうニュースになってたみたいだ。

きっと元素ポリス高校の皆んなは時事に強く。かつ頭も良いのだろう。


すると人だかりの中をかき分けて金髪天然パーマが現れた。

この学校は髪を染めるのもピアスを開けるのもOKだ。


「俺、多塔蒼梧。戦闘科5位だ。仲良くしよーぜ。ついでに先生に校内案内頼まれたからついてこい。」


彼が現れた瞬間人だかりは少し散った。

きっと戦闘科の上位が現れたことで喧嘩が起きると案じたのだろう。


「ありがとう。でももう校内図は把握したし大丈夫。僕は走灯白露」


「存じてるよ、天才」


何も起きなさそうな会話に周りは安心とがっかりした声が
入り混じっていた。


「天才だなんて光栄だな。君こそ戦闘科の上位なんだから強いだろう。」


「いーや、俺より上はバケモン揃いだぞ。おーい!楢葉おっせーよ」


そう呼ばれて出てきたのは少し華奢な人だった。


「だって優毘に引きずりまわされてたんだもん。
あ、僕、楢葉凪。情報科3位です」


また上位か。まぁ友達を作るとなれば上位チームで固まる理由もわかる。


「ねぇ走灯くん。僕と蒼梧と優毘は君のこと天才だと素直に思ってるけど、この学校には天才がもっといる。
だからそいつらに狙われない事を祈るよ。」

「何言ってんだ凪。俺らも白露の力量測りにきたんだぞ」


「ちょっと、それ言ったら走灯くんが、、」

心配して言った楢葉を見て
ハハッと僕は笑った。

「逆に仲良くしてくれるのが予想外だったよ。
僕の方こそ君らのことを探りに来てるようなもんなんでね」

そう言って僕は蒼梧達と中に入った。

朝の授業が終わって休み時間に外に出ていると
やはり一部の視線が痛い。

だが廊下で僕を見かけると必ず噂されるのが、この学年の上位中のトップ。

つまり戦闘科上位の人の名前だ。


「うわぁ、あの人身長高いけど、やっぱ炉型くんに目つけられたら終わりだよ」

「一番恨んでんの多分影楼さんだよ。やっぱ4位止まりってので親から色々言われてるらしいぜ」

「玻璃もやべぇって、あいつ親戚2人もE 7だぞ。絶対あのカリスマが黙ってないよ。」

と言ったふうに、いつ喧嘩を売られにくるか分からん状況だ。

だが、肝心なのは戦闘科一位である。

僕は今その人物を探してるのだが、、、。


「あー!!白露くん!みつけたーー!」


すると目の前に現れたのは髪の毛をきれいに巻いたいかにもおしゃれ番長と言った人物が立っていた。

これが、、東 暁?


「ちょっとーー!なに突っ込んでんだよ!周りの視線が痛いって」

すると楢葉が後から追いついてきた。

「なに、気にする事ないでしょ。それにしても結構顔綺麗ね。髪型なんとかすればいいのに。」


出会って早々ランク付けされた気分だ。

楢葉が来てるってことはこの人はさっきの優毘と言う子か?


「ちょっと優毘!自己紹介。」

「あー!忘れてた。私紫雲優毘、救助科6位。」

「よろしく」


僕は笑って言ったが、そろそろ昼休みが終わりそうだ。

早く東暁を見つけないと。
 (アズマアカツキ)

「お探しの人はここにいますが。」

不意に後ろから声をかけられた。トーンは低いが、透き通った声をしている。


「あんたが東暁か。探してた。」


その瞬間廊下が凍りついたように静かになった。

その姿は一見しただけで分かるほど特徴的だ。

ショートカットのセンター分け。だが少しふわふわしている。後ろ襟は刈り上げていない。

そして細身の体に見えるが、多分割れてるであろう腹筋と陸上部並みの足の筋肉。

制服は自由だから一見しただけなら男と見間違える。


「暁ーーーーー!ね、今日こそ付き合ってよね?」

「無理」

「嘘!他の女の子と付き合ったら許さないから!」

「安心しな、私は女にも男にも興味ない。」

「なんなのこのクール女子!」


まぁこの外見ではモテるのも無理ないだろう。
女に。


「ねね、東さんって間近でみると凄く背高いのね、170はあるんじゃないの?」

「当たり前でしょ?わたしファンクラブ入ってるんだから」

「東さんほんとイケメンよ!この前怪我したうちの学校の女の子、お姫様抱っこで保健室に連れてったのよ!」

「あー、私もしてほしぃ!」

「でも東さんクールだからよほどじゃないと近づけないって」



ほぉ、それゆえの一位ですか。

おもしろい。


「んで、何の用?走灯。」


「いや、あんたを一見したかっただけだ。」


「奇遇だな。私もだ。君は相当頭が回るようだね。」


この言葉の意図は僕の今朝の出来事のことだ。


「ほぉ。東の方こそ素晴らしい噂しか聞かないよ。」


「それは光栄だ。」


なにやら仲がいい様子に今度は安堵のため息しか聞こえてこなかった。

まぁそれほどヤバいやつなのだろう。


そこでチャイムが鳴り、皆はゾロゾロと教室へ帰っていく。


「走灯、今週末の実践練習楽しみにしてるぞ。」

僕は答えた。

「おう。僕も楽しみだ」


ーーーーーーーーー


最後の授業が終わり、皆はゾロゾロと教室から出ていった。

この学校では学校に残って自主練、自習をするのが当たり前らしい。

おそらく部活がないためだろう。

まぁ今日は疲れたから真っ直ぐ帰るか、、

と思って歩いていた矢先に。


「おい、止まれ」


誰かに後ろから声をかけられた。

見覚えはなかったが、僕にはわかる外見の特徴があった。

目の下に何本もの線。クマのようなものがある。

これはまぁまぁな元素量を取り込んでると言うことだ。


「あんた今朝のエレの残党だろ」

「そのとおりだ。まぁ個人的な恨みだがな、」


そう言って襲い掛かってきたのを避けようとした時、

別のエレが待機してたみたいだ。

後ろから脳天を蹴られた。


ーーーー


目が覚めるとそこは波止場だった。

しかし麻酔でも刺されているかのように体が痺れて動かない。


「やっと目覚めたか」


目の前に居たのは東だ。


「へぇ。エレが襲ってくることわかってたんだ。よく出来てるね、いつから?」


僕は出来るだけ抑えて言った。


「今朝のエレの事件から」


東は意地悪気に言う。

そして僕をじっと見た後一言告げた。


「残念だよ。あんたがそれほど切れ者でもなかったみたいで。」


そう言われて僕は海に放り出された。

暗い深淵に落とされるように、そして小波の音に水没音はかき消された。


東はニヤリと笑って、隣にいた人物と波止場を離れていった。