その理由は、私がオーディションの自己PRで披露した殺陣(たて)にあるようだ。
 私の所属する劇団は時代劇を好む傾向にあり、公演にはもれなく殺陣が組み込まれていた。
 子どものころに体操教室に通っており、身のこなしには自信を持っていた私にとって、殺陣は得意であるという自負がある。実際、他の団員よりも動きがいいと認めてもらえて、見せ場を作ってもらうことも少なくなかった。
 だから、審査項目に自己PRがあると聞いたとき、迷わず殺陣を選んだのだ。
 でも――それがまさか、スーツアクターでの合格という何とも複雑な報せを連れてくるとは。

 もちろん、うれしくないわけじゃない。テレビのお仕事はずっとしてみたかったし、今までにない経験をさせてもらえる。それにまだまだ下っ端の私を選んでもらえたという事実はありがたい。
 でも……当たり前だけど、スーツアクターはあくまでメインキャストの影武者的な役割であって、顔出しはいっさいできない。『中の人』とも呼ばれるこの仕事は、文字通りヒーロースーツのなかですべてが完結してしまう。
つまり、どんなにスターリーピンクとして活躍したところで、世間に『榎原みのり』という存在を知らしめることはできないのだ。
 私には、数々の作品に携わって見てくれる人の記憶に残る女優になる、という夢がある。桃園メイという役は、その足がかりとなるはずだったのに……。
 頑張っても、所詮私自身は視聴者に認めてもらえない。
 そう思ったら、何だかモチベーションが下がってしまった。