「まるで、あの日みたいですね」

チョコレートをおいしそうに食べる美月を見て、慶太は呟く。



美月がこのバーを見つけたのは、本当に偶然だった。

今から半年前、通訳の仕事をしている美月は仕事で大きなミスをしてしまい、気分が落ち込んだ状態で夜の街を歩いていた。そんな彼女を嘲笑うかのように突然大雨が降り出し、傘を持っていない美月はあっという間にずぶ濡れになっていく。

コンビニがあったものの、誰とも関わりたくないという気持ちが強かった美月はそのままコンビニを通り過ぎ、普段は歩かない道を引き寄せられるかのようにフラフラ歩いていた。

「……Hazy?」

歩いて行った先に見つけたのが、このバーだった。レトロな外観のそのバーに、吸い寄せられるかのように美月は足を踏み入れる。

お客は何故か誰もおらず、バーカウンターに慶太がいるだけだった。

「いらっしゃいませーーー」

慶太は顔を上げると、全身ずぶ濡れで雫を服や髪から垂らしている美月を見て、「大丈夫ですか!?」と言いながら駆けてくる。その手には、柔らかそうな白いタオルがあった。