「お待たせしてすみません!」

 そこへタイミング悪く(?)帰ってきたアッシュが加わり、全員がアイガーの許へ歩き出してしまった。先程までの会話は聞けていなかったと思うけど、タイミング良く(!)アッシュが質問の続きをしてくれた。

「ツパイおばさん、いつ弓なんて習得したのですか? あのルクを樹にぶら下げて、彼の落下を止めたのはおばさんですよね? シアン兄さんに向けられた攻撃を阻止したのも……いえ、方角からしておばさんじゃない……あれは誰の手による妨害だったのですか?」
「……」

 さっすがーアッシュ!!

 図星の推測に、ツパおばちゃんは観念したようだった。口元をへの字に曲げて、再び諦めたような溜息を吐く。やがてぼそぼそと話し出したその内容は──

「弓を習い出したのは二年程前になります。残念ながら私に、グライダーの破片を弾き飛ばして攻撃を(さまた)げる程の矢は射られません……シアンを救ったのは私の師です。麓からの援護を頼んでおりましたから、先に近衛兵への爆撃を逸らしていた筈ですが……どうにかこちらへも間に合ってくれたようですね」
「え……? 麓、から……??」

 あたしはもちろん、ルクとアッシュもそれを聞いて、思わずあんぐりと口を開け唖然とした。

 近衛兵隊とあたし達、見える範囲の東部に位置していたとしても、どれだけ離れているというのだろう!? その移動距離と矢の射程距離なんて物を考えたら、どんな屈強なお師匠様なのかと全く想像もつかなかった。

 そしてそんな呆然自失するあたし達の横で、何故だかツパおばちゃんの横顔は、その眼に負けないほど真っ赤に染まっていた──??



[註1]ユスリハとラヴェルの、ツパイの眼 目撃談:前作をお読みの貴重な皆様、お忘れでしたら『ラヴェンダー・ジュエルの瞳』七十四話文末、加えてエピソード短編「β」をご参照ください。