「ともかく今は立ち止まっている場合ではありません。ルクアルノの二つのザックは、アイガーが集めて私の荷物と共に見張ってくれています。早く登らないとラヴェルが益々遠くなりますから……行きますよ」
「え? ……えっ、えー……ツパおばちゃん、あたし達を連れて行ってくれるの!?」

 (きびす)を返して背を向けたおばちゃんに、あたしは咄嗟に訊き返してしまった。タラお姉様の取った行動に、とっても憤慨していた様子だもの、てっきり追い返されると思ったのだ。

「帰りなさいと言っても帰る気などないのでしょう? そのつもりでなければあんな真似は出来ない筈です。ですから……説き伏せる時間が無駄になるだけのこと。但し、危険なことは承知でしょうから、今後行動を共にしたいのなら、私の言うことは必ず聞いてもらいますよ」

 振り向きざまに放たれた台詞の内、特に最後の言葉はいつになく手厳しかった。ツパおばちゃんもそれだけ真剣だってことだ。あたし達の無言の頷きを認めて、サッと戻された赤い視線は、まるでサリファの光線を思い出させた。

「あっ、おばさん、すみません。僕が置いてきた荷がそのままなので、すぐに取ってきます」
「分かりました。気を付けるのですよ、アシュリー」

 ああ、あたしもすっかり忘れちゃってたな……歩き出そうとする三人を、慌ててアッシュが引き止める。ツパおばちゃんの了承と同時に、あたし達が来た方向へ駆けて消えた。
 
「あの……さっきルクを助けてくれたのってツパおばちゃんなの? シアンお兄様も??」

 荷物を待つ間、あたしは空を見上げながら、あの下降時に起きた二つの謎を思い出した。どうやってルクは木の幹に縫い留められたのか? シアンお兄様を狙ったサリファの攻撃は、誰がどのように食い止めたのか??

「ルクアルノのパラシュートを射ったのは私です。シアンに関しては……あちらは……」
「??」

 ツパおばちゃんはそこまで話して、急に言葉をくぐもらせ、口をつぐんでしまった。俯いた頬は微かに強張っている。どうして沈黙してしまったのだろう? 言いたくないことでもあるのかしら?