タラお姉様は飛行船を降下させながら北東の中腹を目指していた。

 ハッチの向きと、サリファの気が南面の近衛兵(このえへい)へ向けられていることから、死角となるそちらを選んだのだろう。徐々に近付く山肌が途端に鮮明に見え始めたのは……グライダーが飛行船から飛び出したせいだ。窓の向こうの右後方に、遠ざかる飛行船のハッチが映った。

「じゃあ行くよ、リル。大丈夫だね?」

 シートの上であたしを背負ったままアッシュが振り向く。その言葉と同時に緊張を解こうとしてくれたんだろう、鮮やかなウィンクが投げられた。

「う、うん! 大丈夫。パラシュート開いたら、後は宜しくね、アッシュ!」

 気持ちに応えようと元気に声を張る。微笑みながら頷いたアッシュは、隣のルクとも視線を交わし、更にシアンお兄様の後ろ姿に呼び掛けた。

「兄さん、それじゃ行くから! 姉さんを頼むよ!!」
「OK、アシュリー! ハニィと一緒に待ってるからな!」

 いつも通りのクールな台詞と流し目と共に、両側の扉が自動で開かれた。突然否応なく侵入する風に耐えつつ、アッシュが腰を上げあたしごと空へ飛び出す! 背後には逆方向の扉へ立ち上がったルクの気配を感じた。

 風圧と重力がごちゃ混ぜに身体を支配して、何もかもが真っ白になりそうだった。実際には落ち続けているのに、風を受けた足はふわりと浮き上がって、アッシュから引き離されそうで怖かった。

「リル、パラシュート準備! カウントするよ、5・4・3……」

 アッシュの声にハッと目を開く。震える右手にギュッと力を込めて、パラシュートの紐に手を掛けた。

「……2・1・GO!」
「ひらけぇぇぇっ!!」

 叫びと一緒に広がる大きな影が、自分達を覆っていくのが感じられた。引っ張った紐はちゃんと機能して、パラシュートを開いてくれた! 刹那に変わる落下スピードが、高揚した心さえも鎮めてくれる気持ちがした。

「リル、やったね! パーフェクト!!」

 斜め下からアッシュが親指を立てて褒めてくれた。あたしもしがみつく腕を少しだけ緩めて、彼の目の前に同じく親指を立ててみせた。